【パリ便り】廃棄食材でフルコースディナーを作る異色レストラン『Freegan Pony』
古き良きを大切にしながらも、時代を嗅ぎ取り独自の進化を遂げるパリ。
表面的なことよりも、情緒や風情を重要視するユニークな美意識を持つフランスは、アメリカやアジアとはまた違ったアイディアで私たちを魅了してくれますよね。
そんなリアルなパリのムードやトレンドの中から、日本でのビジネスや企画のアイディアに刺激を与えてくれそうなトピックスを、Landerパリ支部代表のELIEが毎月お届けします!
まだ食べられるのに捨てられてしまう食べ物、いわゆる“食品ロス”はフランスでも関心の高い社会問題。フランスでは年間約700万トン(2015年度)という膨大な食品が廃棄されています。これを金額に換算すると、年間で1兆6000億〜2兆6700億円が無駄にされているとL’express誌は報じていました。
フランス政府は2013年に、食品廃棄量を2015年までに半減させるという目標を打ち出し、今年5月には世界で初めて、大手スーパーマーケットがまだ食べられる食品を廃棄処分することを禁じる法律が可決されました。
この法律により、店舗の面積が400平方メートルを超えるスーパーマーケットは、賞味期限切れで販売できなくなった食品を処分するのではなく、慈善団体に寄付するか、家畜の飼料や肥料に転用するよう義務付けられたのです。
法律制定後、不要になった食品の配送を行う流通業者や、福祉施設などへ提供するフードバンク団体が新たに誕生しました。なかでも注目を集めているのは、パリ北部の幹線道路高架下でフルコースディナーを提供する非営利団体『Freegan Pony』です。
パリ近郊の生鮮食品市場から売れ残った野菜や果物を引き取り、ベジタリアン料理に変えてしまう異色のレストラン。路上に捨てられている廃棄物から衣食住をまかなう反社会主義(Freegan)の思想に基づき、その名が付けられたそう。
団体に所属する職員や、ボランティア参加者、時には有名シェフも無償で参加し料理を振る舞っています。不定期で週2〜3日の営業、事前にSNSを通じて営業日が告知されますが、毎回わずか1時間ほどで全60席埋まってしまう盛況ぶり。
メニューはその日の朝入手できた食材によって決められ、値段はなし。お客がそれぞれ支払える額を提示するという仕組みを取り入れています。
日本の食品ロスは年間約632万トン(2015年度)。大手食品メーカーが賞味期限を伸ばすために製造方法の見直し・改良を行ったり、食べ残しが作法である中華料理のお店が多い横浜も、食べ残しを持ち帰るドギーバッグを推奨するなど「食べきり協力店」事業に取り組んでいるといいます。店側も捨てる量を減らせるとともに、片付けにかかる時間や手間といった人的コストが省けるというメリットも。
世界の中でも率先して食品ロスの問題に取り組むフランス。国際的にも重要課題として位置付けられ、国連計画では「2030年までに小売り・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、食品ロスを減少させる」という目標が掲げられました。
環境省が今年3月に行った全国調査では、全食品ロスのほぼ半分の約300 万トンは日本国内の家庭から出ていると推計しています。たかが食材、されど食材。私たち一人ひとりの食卓も世界に繋がっているのです。